【クロストレーニング】水泳はランナーにおすすめである。

マラソン練習をする中で怖いのがオーバーユースによるスポーツ障害。筆者自身去年、オーバーユースによる中足骨の疲労骨折を患ってしまいました。今回はそんな厄介なスポーツ障害を防ぐために水泳をクロストレーニングとして取り入れたら良いかもよということを論文を参考に検証していきたいと思います。

※18/06/2022 タイトル及び内容を一部加筆。

・クロストレーニングとは

クロストレーニングとは、体の様々な部分を偏りなく鍛えるために特異性のあるスポーツに他のエクササイズを組み合わせることを言います。一般的にランニングでは主に下半身に負担がかかりますが、上半身にはそこまで負担がかかりません。そうしたある特定の筋群には効くが、他の筋群には効かないと言ったことをクロストレーニングで防ぐことができます (Garg et al., 2013)。

怪我をしていない中長距離の選手の多くは有酸素トレーニングの量を増やしたり、フィットネス維持のためにランニングメニューの一部を有酸素クロストレーニングで補ったり、置き換えたりしていると言われています(Pequiette et al., 2018)。また、有酸素クロストレーニング単体でも有酸素フィットネスを維持することができるので、怪我からの回復期に行うリハビリやプレまたはポストシーズンのトレーニングとして非衝撃性または低衝撃性のクロストレーニングを取り入れることは安全に元のトレーニング量に戻すのに非常に有効であると言えます (Pequiette et al., 2018)。有酸素クロストレーニングの例として、水泳、水中ウォーキング、サイクリングが挙げられます。

では水泳がどの場面で使えるかを効果とともに見ていきます。

・アクティブリカバリーとして

水泳を取り入れている間は怪我や慢性疲労とはほぼ無縁状態

水泳に通い始める前は、慢性的な疲労や怪我 (慢性腰痛や梨状筋症候群など)に悩まされていました。特にストラバのフィットネススコアが35付近になると毎回のようにある箇所を故障していました。しかし、ポイント練習の翌日にアクティブリカバリーの一環として水泳を取り入れるようになってから、慢性疲労やメジャーな怪我に悩まされることがなくなりました。

また小学生の頃、週4日のサッカーに加えスイミングスクールにも通っていて中々タフな運動環境にいたにも関わらず大きな怪我をしたのは一度だけでした。これは水泳により、全身がバランス良く鍛えられ、局所的なオーバーユースを防ぐことができたのではと思います。そして中学ではと言うと、水泳をやめ、サッカーだけをやるようになって、毎月のように怪我をしていました。

水泳は炎症を抑え、ランニングパフォーマンスを向上させる

運動後には大なり小なり筋損傷をするので、その修復作業の一つとして急性の炎症反応が起こります。これはポジティブなイベントで、むしろ長期的な抗炎症作用やトレーニングに対する長期的な適応反応に不可欠なプロセスであると考えられています。しかしながら、長期的に高強度のトレーニングを短い回復時間で行った場合、慢性的な炎症や怪我のリスクを増加させる恐れがあります (Cerqueira et al., 2020)。

高強度の練習を毎日するわけないじゃんと言われる方が多数だと思いますが、筆者のようにペースコントロールがうまくいかずにEasy Runのつもりが気づいたらかなり追い込んでしまったなんてのが日常茶飯事な人もいると覚えていただけると幸いです。

そんないつも追い込んでしまい高強度に近い練習を毎日のように行い、結果的に慢性的な炎症を招いてしまう人には水泳が最適です。実際に水泳には炎症に効果があると示唆されています。2回の高強度インターバルトレーニング (VO2peakの速度の85-90%で3minx8)の10時間後に水泳によるリカバリーセッションを行ったグループは、パッシブリカバリーセッションを行ったグループに比べ、翌日のランニングパフォーマンスが上がり、炎症反応の指標ともなるC反応性蛋白の値 (高強度インターバルトレーニングの24時間後)が有意に低かったといった結果が示されました (Lum et al, 2013)。

ただこの研究のコントロール群が別室でただテレビを見ていただけなので、水泳を行ったから炎症反応を小さくできたのか、それとも水の中にいたから炎症反応を小さくできたのかがわかりません。水環境+水泳がただ水に浸かっていただけよりも反応を抑えることができたのなら効果ありと断言できるのですが。

上記の二つの自身の経験に加え少し怪しい研究の結果から、水泳が慢性的な炎症や怪我のリスクを抑える効果を持っていることがわかります。

次に取り入れるタイミングを見ていきましょう。

取り入れるタイミング

アクティブリカバリーとして取り入れる方法はポイント練習のやり方によって変わってきます。

  • ポイント練習の翌日がランオフやジョグである場合→ポイント練習の翌日に行う。
  • ポイント練習を2日連続で行う場合→二つのポイント練習の間に行う。例えば、1回目のポイント練習が朝だったら、夕方ごろに水泳を入れ、翌日のポイント練習に備える。

練習メニュー

  • ウォームアップ: 50mx2本をゆっくりと自由形で (途中でキックだけの区間を設けるなど、バリエーションを増やすとより良いでしょう。)
  • メインセット: ある程度の速さで25mを10本 (種目は何でもいいと思います。) レストは10秒。
  • クールダウン: 50mをゆっくりと自由形で

そもそも泳ぐのが苦手という方は水中ランニングや水中ウォーキングを代わりにやっても良いと思います。

おまけ・僕がやっている練習

僕が実際にやっている練習を紹介します。

  1. ウォームアップ: 軽く100mを自由形で
  2. メインセット: ある程度の速さで(100+200+300+400m)を2-3回繰り返す。レストは10秒。
  3. クールダウン: 軽く100mを自由形で

※ 18/06時点ではかなり内容を変更しているので、そちらも紹介します。ちなみに2種類あります。

サンプル1 1000m (朝にジョグをした場合の日)

  1. ウォームアップ: 400m SKPS S=スイム、K=キック、P=プル
  2. メインセット: (25m+25m)x8 with training fin 最初の25mは息継ぎなしで後半の25mはゆっくりと
  3. クールダウン: 200mなんでもOK

サンプル2 3000m (ポイント練習の翌日)

  1. ウォームアップ: 400m SKPS
  2. キック (フィンあり): 100mx4
  3. プル: 400mx4
  4. メインセット: (25m+25m)x8 with training fin 最初の25mは息継ぎなしで後半の25mはゆっくりと
  5. クールダウン: 200mなんでもOK

・ポイント練習の代替案として

一定の環境に保たれている

究極の方法としてポイント練習の代わりにしてしまうことも可能だと個人的には思います。特に夏などの暑い日はどうしても集中しきれず、せっかくのポイント練習の質が下がりかねません。その点、プールはベストな環境が保たれているのでポイント練習の場にふさわしいと言えるでしょう。

ランニングエコノミーを向上させる

ランニングパフォーマンスを構成する要素の一つとしてランニングエコノミーがあります。ランニングエコノミーはある速度での酸素摂取量のことで、この値が低ければ低いほど、効率よく走れていることを意味します。

水泳では顔を水につけるので容易に酸素摂取量を制限することができ、最低限の酸素量で運動するには最適な環境を作り出すことが可能になります。この状態でトレーニングを続ければ、より少ない酸素摂取量で運動することができるようになるでしょう。つまり、呼吸回数を制御することでランニングエコノミーの向上につなげられると考えられます。実際、呼吸回数を制御した水泳のトレーニングセッションを12回行なったグループはランニングエコノミーを6%向上させたという研究報告があります (Lavin et al., 2013)。

上記の研究で行われたトレーニングセッション:

  • 週3回のトレーニングセッションを4週間
  • 各セッション200ヤードのウォーミングアップをし、
  • メインセッションでは45秒サイクルで25ヤードを息継ぎなしで泳ぎ、それを16本繰り返した。
  • 100ヤードをクールダウンとして行なった。
  • 2週間(6回目)のトレーニングの後、時間間隔を40秒に短縮した。

25ヤードは約23mなので水泳の経験がない方にこのやり方はかなりきついと思います。なので無理をせず、息継ぎをできるだけ減らそうと心がけるだけで最初はいいと思います。継続して練習ができればそのうちできるようになるので。

体にランニングのような衝撃がかからず、全身の筋肉をバランス良く動かせ、尚且つランニングエコノミーを向上させることができる水泳は夏のポイント練習の代替案に適していると言えます。

・まとめ

  • 低衝撃性のため安全に取り組める
  • 炎症反応を抑え、怪我予防に期待できる
  • 呼吸回数を制限することでランニングエコノミーの向上につながる

Reference

Cerqueira, É., Marinho, D A., Neiva, H P., & Lourenço, O. (2020). Inflammatory Effects of High and Moderate Intensity Exercise—A Systematic Review. Frontiers in physiology, 10https://doi.org/10.3389/fphys.2019.01550

Garg, V., Neethi, M., Joshi, S K., & Singh, J. (2013). Effect of Cross Training Techniques in Novice Runners. Indian Journal of Physiotherapy and Occupational Therapy, 7(3), 275-278. https://doi.org/10.5958/J.0973-5674.7.3.107

Lavin, K M., Guenette, . A., Smoliga, J M., & Zavorsky, G S. (2013). Controlled-frequency breath swimming improves swimming performance and running economy. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 25(1), 16-24. http://dx.doi.org/10.1111/sms.12140

  1. Lum,D., Landers, G., & Peeling, P. (2010). Effects of a recovery swim on subsequent running performance. International journal of sports medicine, 31(1), 26–30. https://doi.org/10.1055/s-0029-1239498

Paquette, M., Peel, S., Smith, R., Temme, M., & Dwyer, J. (2018). The Impact of Different Cross-Training Modalities on Performance and Injury-Related Variables in High School Cross Country Runners. Journal of Strength & Conditioning Research, 32(6), 1745-1753. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000002042